神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)1014号 判決 1990年7月24日
原告 中西一晴
右訴訟代理人弁護士 岡本日出子
被告 株式会社一誠社
右代表者代表取締役 前田輝一
右訴訟代理人弁護士 矢野弦次郎
同 中東孝
同 大西淳二
被告 四国佐川急便株式会社
右代表者代表取締役 佐川正明
被告 大阪佐川急便株式会社
右代表者代表取締役 栗和田榮一
右両名訴訟代理人弁護士 飯村佳夫
同 水野武夫
同 田原睦夫
同 栗原良扶
同 増市徹
同 木村圭二郎
主文
1 被告大阪佐川急便株式会社は、原告に対し、金八八万四四〇〇円及びこれに対する昭和六三年七月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告大阪佐川急便株式会社に対するその余の請求及び被告株式会社一誠社、同四国佐川急便株式会社に対する各請求を、いずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告に生じた費用の三分の一と被告大阪佐川急便株式会社に生じた費用を五分し、その四を原告の負担とし、その一を同被告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告株式会社一誠社及び被告四国佐川急便株式会社に生じた各費用を原告の負担とする。
事実
第一請求
被告らは、原告に対し、各自金三九三万六〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年七月一日から支払ずみまで年六分の金員を支払え。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告株式会社一誠社(以下「一誠社」という。)は情報産業機械及び材料の製造販売等を業とする会社、被告四国佐川急便株式会社(以下「四国佐川急便」という。)と同大阪佐川急便株式会社(以下「大阪佐川急便」という。)は、一般区域貨物の自動車運送等を業とする会社である。
2 原告は、昭和六二年六月二五日被告一誠社との間で、会話、講演等を文書入力した文書フロッピーディスク九枚(内訳、型式ワードプロセッサーオアシス一〇〇シリーズ五インチのものが四枚、キャノン四五Sシリーズ五インチのものが五枚、以下たんに「変換前フロッピー」という。)をMEC05MKIIシリーズ八インチの文書フロッピーディスク九枚(以下たんに「変換後フロッピー」という。)に変換する請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し、同被告は、原告から同被告に送付した変換前フロッピーを変換後フロッピーに変換した。
3 被告一誠社は、同年七月一日被告四国佐川急便(高松店扱い)との間で、変換前及び変換後のフロッピー一八枚(以下「本件フロッピー」という。)を、原告を荷受人として、原告方に運送する契約(以下「本件運送契約」という。)を締結し、本件フロッピーを引渡した。
4 被告四国佐川急便は被告大阪佐川急便に本件フロッピーの運送を引継ぎ、被告大阪佐川急便神戸店に雇われ自動車を運転して集荷配達の業務に従事していた谷秀幸は、同月二日本件フロッピーの配達に原告方住宅を訪れたところ、原告が不在であったため、本件フロッピーを原告に手渡すことなく、原告方住宅の玄関先に放置したまま帰ってしまった。そこで同日原告が帰宅したときには本件フロッピーは紛失しており、原告はこれを受領できなかった。
5 被告らの損害賠償責任
(一) 本件フロッピーの紛失は谷の重大な過失によって生じた。
運送契約においては、原則として運送品を荷受人本人に直接手交しなければ履行が完了したとはいえず、標準貨物運送約款一八条は、荷受人に対する引渡しとみなす例外として荷受人と一定の密接な関係を有する者に手交する場合を上げるのみで、いかなる状況であっても運送品を荷受人に引渡さずに放置することは許されていない。しかるに、谷は荷受人の原告が不在であったので、本件フロッピーを一旦持ち帰り再配達するなど、確実に原告に引渡す万全の措置を講じてその紛失を防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、本件フロッピーを往来の激しい原告方住宅の玄関先に漫然と放置したため、紛失するにいたらしめたものであり、同人には故意にも相当する重大な過失がある。
(二) (被告一誠社の債務不履行責任)
本件請負契約に基づく本件フロッピーの引渡義務の履行場所は原告住所である。そこで被告四国佐川急便、同大阪佐川急便は被告一誠社の右引渡義務の履行補助者であるから、被告一誠社は、被告四国佐川急便に本件フロッピーの運送を委託して引渡した後、それが原告に引渡されるまでの間に紛失したので、被告一誠社の原告に対する本件フロッピーの引渡義務は履行不能となった。従って被告一誠社は原告に対し債務不履行の責任がある。
(三) (被告四国佐川急便、同大阪佐川急便の債務不履行責任)
(1) 被告四国佐川急便は、被告一誠社との間で本件フロッピーを原告住所まで運送する本件運送契約を締結し、被告大阪佐川急便は被告四国佐川急便から右運送を引継いだ。右運送形態は一通の通し運送状によって引継がれていることからして、商法五七九条にいう相次運送に該当する。
(2) 前記のとおり、被告大阪佐川急便の従業員谷は、重大な過失により、運送品の本件フロッピーを原告に引渡さず紛失させたので、相次運送人の被告四国佐川急便、同大阪佐川急便は、本件フロッピーの紛失につき連帯して一切の損害賠償責任があるところ(商法五七九条、五八一条)、運送品の本件フロッピーは到達地に達したので、荷受人の原告は、荷送人の被告一誠社の本件運送契約による権利を取得した。そこで原告は被告四国佐川急便、同大阪佐川急便に対し、本件フロッピーの紛失による損害賠償請求権を有する。
(四) (被告四国佐川急便、同大阪佐川急便の不法行為責任)
(1) 被告大阪佐川急便の従業員谷は、同被告の事業の執行につき、過失により原告所有の本件フロッピーを紛失させたのであるから、同被告は、谷の使用者として本件フロッピーの紛失により原告が被った損害を賠償すべき責任がある。
(2) 被告四国佐川急便と同大阪佐川急便は、便宜上法人格を別個としているが、代表取締役佐川正明を共通とし、事業目的を同じくする実質上は同一企業ともいうべき関係にあり、相互に通送を引継ぎ合うことを常態として営業しており、本件運送契約もその一環としてなされたものである。
従って、被告大阪佐川急便のみならず、被告四国佐川急便も、谷に対して直接間接に指揮監督関係を及ぼしているので、被告四国佐川急便は、谷の不法行為につき使用者責任を免れない。
(3) 運送品の滅失が生じた場合、運送契約上の債務不履行責任と不法行為責任とは要件と効果を異にするから、前者に基づく損害賠償責任と後者に基づくそれとは別個の権利として競合し、債権者はそのいずれも行使できる。
不法行為責任が成立するためには故意又は重過失を要しないし、運送品が高価品の場合にその明告がなかったとしても、商法五七八条により運送人が免責されるのは運送契約上の債務不履行責任のみであって、不法行為責任は免れない。
6 原告の損害
(一) 本件フロッピーは、会話、講演等の録音テープの内容が入力作業を経て文書入力されているので、財産的価値を内包する。そして本件フロッピーに入力されている量は、一本当り二時間の録音テープ五〇本分、時間に換算すると一〇〇時間相当分である。録音テープ一時間分を文書入力するのに三万九〇〇〇円の費用を要するので、一〇〇時間相当の録音テープの内容が入力された本件フロッピーには三九〇万円の費用をかけていることになる。そこで本件フロッピーの財産的価値は、右三九〇万円に、入力前のフロッピーディスク自体の価額三万六〇〇〇円(一枚当り二〇〇〇円の割合で一八枚分)を加えると、三九三万六〇〇〇円相当である。本件フロッピーの紛失により、原告はその財産的価値に当たる三九三万六〇〇〇円の損害を被った。
(二) 右損害はいわゆる通常損害に当たるが、仮に特別事情によって生じた損害であるとしても、被告一誠社は、フロッピーディスクを変換するという本件請負契約の内容から当然本件フロッピーは重要な資料が入力された高い財産的価値を有するものであることを知っていたし、また知り得べきであったから、前記損害を賠償すべき義務がある。
(三) また録音テープの内容をフロッピーディスクに文書入力しておくと、すぐに文字化、印刷ができ、検索が容易で保管場所をとらないなど数々の利点があるので、録音テープに比べ、その内容を入力したフロッピーディスクは、全く異質の格段に高い価値を有する。前者から後者をつくり出すには入力作業を要するので、原告に録音テープが残っているからといって、本件フロッピー紛失による損害はいささかも減殺されない。
7 よって、原告は、被告らに対し、各自右損害金三九三万六〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日の昭和六三年七月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(被告一誠社)
1 請求原因1ないし3の事実は認める。
2 同4の事実は不知。
3 同5(二)の事実は否認する。
被告一誠社は原告に対し本件フロッピーを引渡し履行を終えている。
4 同6の事実中、本件フロッピーに会話、講演等の内容が文書入力されていること、入力前のフロッピーディスク自体の価額が一枚当たり二〇〇〇円であることは認めるが、その余は不知。
原告主張の本件フロッピーの入力費用三九〇万円は、本件フロッピーの紛失による損害ではない。右損害は、入力前の本件フロッピーそれ自体の価額と入力内容の価値であって、それ以外の入力費用は損害に該当しない。原告は、入力内容について、録音テープに録音してあるというのであるから、本件フロッピーを紛失したとしても、入力内容を全く喪失したものでなく、入力内容自体に何の損害も被っていない。
したがって、本件フロッピーの紛失による損害は、入力前のフロッピーディスク自体の価額にとどまる。
また本件フロッピーが原告主張の高額な価値を有するものであるならば、原告においてコピーをとるか、コピーをとっていないときはその旨被告一誠社に告知すべきである。右告知があれば、同被告としては、紛失等万一の場合に備えて、コピーをつくる、保険に付する、或いは原告住所に直接持参して引渡すといった相当な措置や方法を講ずることができた筈である。原告は同被告に右告知をしていないので、本件フロッピーの紛失により原告に生じた損害は、特別事情による損害というべきである。
(被告四国佐川急便、同大阪佐川急便)
1 同1の事実は認める。
2 同2の事実は不知。
3 同3の事実は、運送品の内容を除き認める。運送品の内容が本件フロッピーであることは不知。
4 同4の事実は、谷が本件運送品を原告方住宅の玄関先に放置して紛失したことを除き認める。
後記のとおり、谷は本件運送品を原告方住宅(事務所)の入口に置き原告に配達した。
5(一) 同5(一)の事実中、谷が本件運送品を荷受人の原告に直接引渡していないことを認め、その余は争う。
(二) 同5(三)(1) の事実中、本件運送品の運送が被告四国佐川急便と同大阪佐川急便の相次運送であることは否認する。
本件運送契約は、被告一誠社と被告四国佐川急便との間で締結され、被告四国佐川急便は自己が運送人となるとともに運送取扱人にもなって、被告大阪佐川急便に本件運送を依頼したものであるから、同被告は被告四国佐川急便の下請或いは履行補助者に過ぎず、本件運送の当事者ではなく、相次運送人ではない。
(三) 同5(三)(2) の事実中、原告が本件運送品の荷受人であり、本件運送品が到達地に到着したことは認めるが、その余は否認する。
6(一) 同5(四)(1) の事実中、被告大阪佐川急便が谷の使用者であることは認めるが、その余は争う。
(二) 同5(四)(2) の事実中、被告四国佐川急便と同大阪佐川急便とは同一グループに属する企業であることは認めるが、その余は否認する。
被告四国佐川急便は谷の使用者ではないし、同人の選任、監督に責任を負うものではないから、同人の不法行為につき使用者責任はない。
(三) 同5(四)(3) の主張は争う。
運送契約に基づく債務不履行責任と不法行為責任とは法条競合の関係に立ち、前者が成立するとき後者は成立しない。
仮に両責任に基づく損害賠償請求権が競合するとしても、不法行為責任が成立するのは運送人に故意又は重過失があった場合に限られるところ、本件において谷には故意又は重過失がなく、被告大阪佐川急便の同人に対する選任監督に重過失はないから、同被告は不法行為責任を負わない。
7 同6の事実は争う。
本件フロッピーは、いわゆるワープロ用のフロッピーであるが、原告から従前これを利用した際、内容を打出した文書が残存すると思われるが、本件でかかる文書は提出されていないので、本件フロッピーの内容は不明である。また本件フロッピーは録音テープから原告や原告の知人が打込んだというのであるが、打込みに対価を支払っていないので、内容自体に経済的価値はない。このようなフロッピーの滅失による損害は、資本市場で対価を支払い再生する場合と同列に論じえず、当該物それ自体の価額(フロッピーの再購入価額)を除けば、精々慰藉の対象としての価値しかないというべきである。
三 被告らの抗弁
(被告一誠社)
1 本件請負契約における本件フロッピーの引渡しの履行場所は被告一誠社の店頭であるところ、被告一誠社は、原告から本件フロッピーの運送委託を依頼されていたから、被告四国佐川急便に本件フロッピーを荷受人原告として運送委託し、引渡した時点で、被告一誠社の原告に対する本件フロッピー引渡しの履行義務は尽され完了した。
引渡しの右履行義務完了後における本件フロッピー滅失の危険は原告が負担することになるので、原告に対し被告一誠社は本件請負契約の債務不履行はない。
2 仮に本件フロッピーの引渡し履行場所が原告住所(事務所)であり、被告四国佐川急便が被告一誠社の引渡義務の履行補助者としても、被告一誠社と原告との本件請負契約においては、本件フロッピーの引渡義務につき、次のとおり同被告の責任を軽減する黙示的合意がなされた。
すなわち、被告一誠社と原告は、本件フロッピーの引渡方法につき、いわゆる宅配便運送によることを合意したが、その際、同被告は、履行補助者となる運送業者の選任、監督に責任を負うけれども、履行補助者の故意、過失については責任を負わない旨黙示の合意がなされている。
右責任軽減の合意があるゆえ、被告一誠社は本件フロッピーを運送委託したものであって、そうでなければ、同被告としては、原告からより高額の代金を徴収のうえ、自社従業員をして原告住所に本件フロッピーを持参引渡すことが安全であり、あえて運送に委託する利益はない。
そこで被告一誠社は被告四国佐川急便に本件フロッピーを運送委託したが、履行補助者の同被告に対する選任、監督に何ら落度はない。したがって本件フロッピーの紛失につき、被告一誠社に契約上の債務不履行責任はない。
3 仮に被告一誠社に損害賠償義務があるとしても、原告は本件フロッピーのコピーをとることにより、容易に原告主張の損害の発生を防止できたのであるから、何らそのような手段を講じなかった原告にも過失がある。
(被告四国佐川急便、同大阪佐川急便)
1 本件フロッピーは原告に配達されている。
(一) 被告大阪佐川急便の従業員谷秀幸は、昭和六二年七月二日昼過ぎ頃、運送品の本件フロッピーを配達のため、原告住所(事務所)を訪れたところ、原告は不在であった。そこで道路に面する原告方住宅入口のシャッター二枚のうち左側の一枚が開いており、ガレージに続いてその奥が原告方事務所となっているところ、その事務所入口は、道路からはシャッターで隔てられ、ガレージ内の棚の蔭に隠れて、道路から見えない場所であるし、本件フロッピーには保険も付されておらず、高価品との記載もなかったので、事務所入口に本件フロッピーと送り状を置いて帰ったものである。同所は道路とシャッターで隔てられ、一般人が立入らない原告の占有支配する場所といえるから、同所に本件フロッピーを置いたことにより、これを原告に引渡したものというべく、配達は完了している。
(二) 原告は本件フロッピーが紛失したと主張するが、紛失は次のような問題点があって疑問である。
すなわち、本件フロッピーの置かれた場所、荷物の形状等からみて、何人かが本件フロッピーを持去るとは考え難いし、本件フロッピー以外他に盗難品はなく、また本件フロッピーと一緒に置かれた本件運送品の送り状も失われたというのもおかしなことであり、原告が本件フロッピーが紛失したと言い出したあとの原告の言動等には不自然さがみられた。
2 本件運送契約に当り、荷送人の被告一誠社から被告四国佐川急便に対し、運送品が高価品であるとの明告がなかったので、同被告に本件運送契約に基づく損害賠償責任はない。
原告の主張する損害額から運送品の本件フロッピーは商法五七八条に定める高価品に該当するが、高価品の場合、その運送を委託するに当り、その種類及び価額を明告しなければ運送人は故意に基づくものでない限り、損害賠償の責任を負わない。ところで本件運送の送り状にはFD8、FD5とのみ記載されているが、このような記載から運送人は運送品の内容を判断することはできないし、またその価額の明告は全くないのであるから、本件運送契約に当り、高価品の明告はなされていない。
3 被告大阪佐川急便は不法行為による損害賠償責任を負わない。
仮に運送人の被告大阪佐川急便に本件運送品の滅失について過失があるとしても、本件運送契約に当り、荷送人から本件運送品が高価品との明告がないので、本件運送契約の荷送人、荷受人に対する関係では商法五七八条及び本件運送約款の規定(四五条)により免責されるから、原告に対し、被告大阪佐川急便の過失による不法行為責任もまた免責されると解されるべきである。
4 仮に被告四国佐川急便、同大阪佐川急便に損害賠償義務があるとしても、フロッピーを変換するため外注する場合、運送途上の事故或いは変換作業中の損傷などのアクシデントによってフロッピーの入力内容がすべて消失してしまうため、これに対処すべく、事前にフロッピーを複製しておくのはフロッピー取扱者の常識であるところ、原告は本件フロッピーの複製をしていないので、損害発生に関し過失がある。
四 抗弁に対する認否
(被告一誠社に対し)
1 抗弁1の事実は否認する。前記請求原因5(二)のとおりである。
2 同2の事実は否認する。同被告主張の責任軽減の黙示的合意はない。
3 同3の事実中、原告が本件フロッピーの複製(コピー)をとっていなかったことは認めるが、その余は否認する。
仮に原告に過失が認められるとしても、過失相殺の対象となる過失にはあたらない。ただし、本件フロッピーの紛失は原告が本件フロッピーを複製したか否かとは関係なく発生した事態であり、複製していたとしても紛失を防止しえたわけではない。
(被告四国佐川急便、同大阪佐川急便に対し)
1 抗弁1の事実は否認する。本件フロッピーは原告に配達されずに紛失した。
2 同2の事実は争う。
運送品が高価品である場合、その種類及び価額を明告しなければならないが、種類の明告により当然価額を知りうるときは、必ずしも価額の明告を要しないところ、被告一誠社は被告四国佐川急便に本件フロッピーの運送を委託するに当り、運送品がフロッピーディスクであることは明告している。被告四国佐川急便は、その業種からして、右運送品が既に入力されたフロッピーディスクであることを容易に推察でき、そうであれば当然貴重品であることも知りうるので、本件運送契約に当り、高価品の明告はなされている。
3 同3の主張は争う。
4 同4の事実につき、前記被告一誠社の抗弁に対する認容3と同じ。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因1の事実は全当事者間に争いがなく、同2の事実は、原告と被告一誠社との間において争いがなく、被告四国佐川急便同大阪佐川急便との間においては弁論の全趣旨によってこれを認めることができ、同3の事実は、原告と被告一誠社との間において争いがなく、被告四国佐川急便、同大阪佐川急便との間においては、本件運送品が本件フロッピーであることを除き争いがないが、本件運送品が本件フロッピーであることは弁論の全趣旨によって認められる。
同4の事実は、谷において運送品の本件フロッピーを原告方住宅(事務所)の玄関先に放置して紛失したとの点を除き、原告と被告四国佐川急便、同大阪佐川急便との間において争いがなく、被告一誠社との間においても、本件フロッピーの紛失の点を除き弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。
二 そこで、本件フロッピーの紛失の有無、原告への配達の成否につき検討する。
1 <証拠>によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件フロッピーの原告への配達は被告大阪佐川急便神戸店が取扱い、同店勤務の従業員谷は、昭和六二年七月二日正午過ぎ頃、原告方住宅(事務所)を訪れたが、原告方住宅は、道路に面し入口に左右二面のシャッターが下り、ガレージがあってその奥に事務所がある構造のところ、当時左側のシャッター一面のみ開いていたので、谷はそこから入って、原告を呼出してみたものの、原告は留守であった。
(二) 運送品の配達に赴いて荷受人が不在で手渡せない場合には一旦運送品を持ち帰り再配達をするのが通常の取扱いであるが、谷は、入口のシャッターが左側一面しか開かれていなかったし、また事務所入口のドアの前には棚が置かれていて、縦二五センチメートル、横二〇センチメートル大の茶色封筒入りの本件フロッピーを、事務所ドア前の階段に置いても、道路の通行人からは隠れて見えない位置であったから、手軽に考え、そのうち帰宅の原告において本件フロッピーに気付いて受取ると思い、右大型茶色封筒入りの本件フロッピーを荷物送り状(伝票)と共に、事務所ドアの前の階段に置いたまま帰店してしまった。
(三) 谷は、帰店したあと、原告方に電話等で連絡し、本件フロッピーが原告の手許に届いたかどうか問い合せる手立てもとらないでいたところ、同月五日にいたり、原告から被告大阪佐川急便神戸店に本件フロッピーの配達の有無につき問い合せがあり、谷は前記のように本件フロッピーを原告方事務所の入口に置いてきたと釈明したが、原告は帰宅した際に本件フロッピーは見当らず、受取っていないので、結局紛失してしまったということに落着し、原告と被告大阪佐川急便神戸店との間で事後措置が話し合われるにいたった。
2 右認定の事実によれば、谷は本件フロッピーの配達に原告方を訪れた際、原告が不在であったので、大型封筒入りの本件フロッピーを事務所入口に置いたまま帰店してしまい、原告に手渡さなかったため、本件フロッピーが見当らず、結局紛失してしまったと認めるのが相当であり、したがって被告大阪佐川急便は運送品の本件フロッピーを荷受人の原告に引渡していないから、配達は完了せず、滅失させてしまったといわなければならない。
被告四国佐川急便、同大阪佐川急便は、原告方に配達に赴いた谷が本件フロッピーを置いた場所は、道路の通行人等他人の眼にさらされる場所ではなかったし、荷物の形状や内容からして他人がこれを持ち去る事態は考え難く、また原告の言動からみて、紛失は疑問と主張するが、なるほど本件フロッピーの紛失に疑念を抱かせる余地はともかく、いかんせん谷は配達取扱いの原則に反し、本件フロッピーを原告或いは原告の同居者等に手渡さずに、原告方事務所入口に置いたまま、そのあと原告に連絡すらしていないのであるから、原告から本件フロッピーが配達されずに紛失したと言われても返す言葉がなく、被告大阪佐川急便において原告への配達を証明しえない以上、右主張は理由がない。
三 右のとおり、運送品の本件フロッピーは原告に引渡されることなく紛失したのであるが、まず被告一誠社に対する本件請負契約の債務不履行責任の有無につき検討する。
1 原告と被告一誠社との本件請負契約は、変換前フロッピーを変換後フロッピーにデータ変換する仕事を内容とし、右仕事の完成が主要な目的であるが、右仕事を完成して変換前及び変換後の本件フロッピーを注文者に引渡すことも請負人の仕事完成の義務の中に含まれるわけであるから、被告一誠社は原告に本件フロッピーの引渡をなすべき債務を負担する。
ところで、被告一誠社は、本件フロッピーの引渡しの履行場所は同社店頭と定められ、原告から本件フロッピーの運送委託を依頼されていたので、被告四国佐川急便に本件フロッピーを運送委託して引渡したことにより、被告一誠社の原告に対する本件フロッピーの引渡し債務は履行された。仮に引渡し履行場所が原告住所であって、被告四国佐川急便が引渡し債務の履行補助者であるとしても、同被告の選任監督に何ら落度はないので、被告一誠社の本件フロッピー引渡し債務の責任は軽減され本件フロッピーの紛失につき債務不履行の責任を負わない旨主張する。
<証拠>によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、昭和六〇年九月被告一誠社から同社開発のソフト「オアシス対応イメージ変換プログラム」を購入し、運送してもらったのが最初の取引であるが、次いで昭和六二年二月初め、同被告に本件と同様、ワープロ用フロッピーを他の機種のフロッピーにデータ変換する仕事を請負わせ、変換したフロッピーを運送してもらい、続いて本件請負契約にいたった。
(二) 原告は、昭和六二年二月初めの請負契約の際、今後も各種ワープロのフロッピーのデータ変換を依頼するので同被告と取引したいと申し出で、かつ同被告との間で、<1>価格は同被告発行の同被告の業務内容等を記載したサービスガイドに記載のとおりとし、但しこれに記載のない場合はその都度相談してきめる、<2>受注は同被告の店頭受けが原則、<3>納品は店頭渡しが原則、従って送付する場合は実費送付料金を請求する、といった取引条件を約定した。同被告から原告に交付された前記サービスガイドにも、製品の納品は、原則として店頭渡し、遠方の客にはトラック便による発送を承わるが、送料は実費請求する旨記載されている。
(三) 昭和六二年二月初めの請負契約においては、変換前フロッピーは原告から被告一誠社に、変換を終えたフロッピーは同被告から原告に、いずれも宅配便運送を用いて送付された。そして本件請負契約においても、原告と被告一誠社間でとくべつに受注、納品方法の取り決めなく、前回と同様当初から宅配便運送を用いることを予定し、そのとおり実行されたが同被告は、他県内の顧客への納品は、いつも被告四国佐川急便に運送委託しているので、本件フロッピーも同被告に運送委託して引渡した。
右認定の事実によると、本件請負契約において、被告一誠社の原告に対する本件フロッピーの引渡しは、履行場所を同被告の店頭とし、原告と隔地であるため、もともと宅配便運送によって引渡すことが約定されていたと認めるのが相当である。そうとすると、被告一誠社は、原告との約定に従い、本件フロッピーをいつも運送を委託する運送業者の被告四国佐川急便に運送委託して引渡したものであり、右運送業者の選任に特段の落度があったとは認められないのであるから、被告一誠社は原告に対し本件フロッピーの引渡し債務を履行したものと認めるのが相当である。被告一誠社が被告四国佐川急便に本件フロッピーを運送委託して引渡したあと、運送業者において本件フロッピーを原告に配達しないうちに紛失してしまったとしても、右紛失につき被告一誠社に帰責事由があるとは認め難いので、同被告は本件フロッピーの引渡し債務につき債務不履行責任を負わないというべきである。
四 進んで被告四国佐川急便、同大阪佐川急便の本件運送契約による債務不履行責任の有無につき判断する。
1 本件運送契約は被告一誠社と被告四国佐川急便との間で締結されて同被告は本件フロッピーの運送委託を受けたが、同被告は被告大阪佐川急便に本件フロッピーの運送を引継ぎ、被告大阪佐川急便において荷受人の原告へ本件フロッピーの配達に赴くにいたったことは当事者間に争いがないところ、<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、本件フロッピーの運送は、通し運送状によって運送が引受けられ、被告四国佐川急便及び被告大阪佐川急便は、相互に運送上の連絡をもって順次各区間を荷送人のためにする意思で本件フロッピーの運送に当ったものと認められる。そうとすると、被告四国佐川急便と被告大阪佐川急便は、本件フロッピーの運送につき、いわゆる相次運送人に当るといわなければならない。
2 原告が運送品の本件フロッピーの荷受人であること、運送品が到達地に到着したことは当事者間に争いがないので、荷受人の原告は、本件運送契約によって生じた荷送人の被告一誠社の権利を取得し、これを自己の権利として行使することができる。
3 ところで荷受人の原告が取得するのは荷送人の被告一誠社の権利と同一内容の権利であるから、荷受人が右権利を取得するまでに、運送人の被告四国佐川急便らが荷送人に対して取得した本件運送契約上の抗弁は荷受人にも対抗できるので、被告四国佐川急便、同大阪佐川急便のいわゆる高価品運送の抗弁につき検討する。
(一) 商法五七八条所定の高価品とは、重量又は容積に比べて著しく高価な物品をいうものと解される。そして同条は、荷送人が運送人に右高価品の運送を委託するに当り、その種類及び価額を明告しなければ、運送品が滅失、毀損した場合でも、運送人は損害賠償の責に任じないと規定している。このような運送人に免責を認めた趣旨は、高価品であることにより減失毀損の危険性が高く、またこれによる損害額が多額に上ることから、運送人をして予めその取扱いにつき、相応の特別の配慮をなさしめるとともに、損害が生じた場合の最高限度額を予知させ、運送人の営業を保護しようとしたものと解されている。
(二) ところで、運送品の本件フロッピーは、前記認定のとおり大型封筒入りの容積、重量であるのに、原告主張によると、評価額三九三万六〇〇〇円もの財産的価値を有する物品というのであるから、高価品に当るといわなければならない。
(三) <証拠>及び弁論の全趣旨によれば、被告一誠社は、被告四国佐川急便に対し、本件フロッピーの運送を委託するに際し、運送品がフロッピーディスクの8インチもの9枚、5インチもの9枚であることを告知しているものの、運送品の内容や価額を全く告知していなかったことが認められるので、荷送人から運送人に運送委託の本件フロッピーが高価品であることの明告をしていないといわなければならない。
原告は、本件フロッピーの運送委託に当り、被告一誠社は被告四国佐川急便に運送品がフロッピーディスクであることを明告しているので、これが貴重品であることは推察でき、高価品の明告はなされていると主張するが、たんに運送品がフロッピーディスクであるとの明告から、運送人において当然にその内容や価額を知りうる事情があったとは認められないので、原告の右主張は失当である。
右のとおり、本件フロッピーの運送委託に当り、荷送人の被告一誠社から運送人の被告四国佐川急便に対し、本件フロッピーが高価品であるとの明告はなされていないので、相次運送人の被告四国佐川急便及び被告大阪佐川急便は、運送品の荷送人である被告一誠社及び同被告の権利を取得した荷受人の原告に対し、商法五七八条により、本件フロッピーの紛失につき、債務不履行による損害賠償責任を免れるというべく、原告に対し、被告四国佐川急便、同大阪佐川急便は、本件運送契約による債務不履行責任を負わない。
五 さらに、原告の被告四国佐川急便、同大阪佐川急便に対する不法行為責任の有無につき判断する。
1 運送品の本件フロッピーは原告に配達されずに紛失してしまったこと、右紛失は配達に赴いた谷において配達取扱いの原則に反し本件フロッピーを原告或いは原告の同居者等に手渡せずに、原告方事務所入口に置いたまま帰店したためであることは前記認定のとおりである。そうとすると、本件フロッピーの紛失は、谷において運送品配達の基本的注意義務を怠ったために生じたというべきであるから、谷の過失によると認めるのが相当である。
なお、原告は谷の右過失は重大な過失であると主張する。しかし、前記認定のとおり、谷は本件フロッピーを原告方に配達に赴いた際の原告方住宅(事務所)の構造と状況からして、本件フロッピーをそう簡単には人目につかない事務所入口に置いたまま帰店したものであって、もとより谷の右行為は軽率であったというほかないものの、著しい注意を欠如した行為とみるのは相当でない。本件フロッピーの紛失につき、谷の過失は否めないけれども、それ以上に重大な過失により生じたというべきではない。
2 被告大阪佐川急便が谷の使用者であることは当事者間に争いがなく、谷の行為は同被告の事業の執行中の行為であることも明らかであるから、同被告は谷の不法行為につきいわゆる使用者責任を免れない。
3 原告は、なお被告四国佐川急便も被告大阪佐川急便と事業目的を同じくし実質的に同一企業の関係にあるから、被告四国佐川急便は、谷に対して直接間接の指揮監督関係を及ぼし、谷の不法行為につき使用者責任を負うと主張する。被告四国佐川急便と被告大阪佐川急便は、いわゆる同一企業グループに属していることは当事者間に争いがないものの、弁論の全趣旨からして、両者は別個独立の法人格を有する企業であるし、被告四国佐川急便は、全く谷とは雇傭関係を有しないので、谷の使用者ではなく、同人を指揮監督する関係に立たないと認められるから、被告四国佐川急便は谷の不法行為につき使用者責任を負ういわれはない。原告の主張は失当である。
4 次に被告大阪佐川急便は、本件運送契約において本件フロッピーの運送委託に当り、これが高価品であるとの明告がないので、運送人は商法五七八条により損害賠償責任を免責される。この関係から被告大阪佐川急便の過失による不法行為責任もまた免責されるし、同被告に不法行為責任が成立するとしても、同被告に故意又は重大な過失がある場合に限られる旨主張する。
運送人の運送契約上の債務不履行に基づく損害賠償責任と不法行為に基づく損害賠償責任との関係、さらに商法五七八条の高価品に関する特則は不法行為によって生じた運送品の損害の場合にも適用があるかといった問題については、多くの論議がみられるところであるが、運送人の責任に関し、運送契約上の債務不履行に基づく賠償請求権と不法行為に基づく賠償請求権とは競合が認められるのであって、右請求権の競合が認められるには運送人の側に過失あるをもって足り、必ずしも故意又は重大な過失の存することを要するものではないと解するのが相当であり(最高裁昭和三八年一一月五日判決、民集一七巻一一号一五一〇頁参照)、また商法五七八条による運送人の保護の特訓は、運送契約上の債務不履行責任にのみ関するものであって、右の場合を除いて、運送人の不法行為責任も右法条によって免責されると解することはできない。従って被告大阪佐川急便の主張は採用し難い。
六 そこで、被告大阪佐川急便の賠償すべき損害額について判断する。
1 本件フロッピーが会話、講演等を文書入力したフロッピーディスクであることは前記認定のとおりである。原告は、本件フロッピーは会話・講演等の録音テープを入力作業を経て文書入力したもので、入力されている量は、一本当り二時間の録音テープが五〇本分、時間に換算して一〇〇時間相当である、そして録音テープ一時間分を文書入力するのに三万九〇〇〇円の費用を要するので、本件フロッピーは三九〇万円の費用をかけた財産的価値を有し、入力前のフロッピーディスク自体の価額三万六〇〇〇円(一枚当り二〇〇〇円の割合で一八枚分)を加えると三九三万六〇〇〇円の価額になると主張する。
<証拠>によると、本件フロッピーに文書入力した元の録音テープに集録された会話、講演、討論等は、原告がこれまで約一二年間にわたり行政書士としての業務の関係から録音集録したもので、一四〇件の項目に上ること、録音時間は合計して八七時間か八八時間になること、録音テープからフロッピーディスクへの文書入力は、主に原告自身や原告の友人がその作業に当り、なかには業者に依頼したものもあることが認められる。
ところで録音テープの文書化反訳(テープおこし)の費用について、<証拠>によれば、一時間テープで二万五〇〇〇円を基準に反訳する業者がいることが認められる。
一方、<証拠>によると、録音テープの文書化費用は一時間当り三万九〇〇〇円と記載するが、<証拠>によると、右の<証拠>は、原告の要望で高い見積価額を記載したもので、的確な裏付け資料に基いて算定した価額を記載したわけのものでないことが認められるから、右<証拠>を採証の資料として採ることはできない。
そうとすると、録音テープの反訳、文書化の費用は、一時間テープで二万五〇〇〇円と認めるのを相当とする。そこで前記のとおり本件フロッピーは、少くとも録音時間八七時間の録音テープに集録の会話、講演等を文書入力したものであるから、文書入力に二一七万五〇〇〇円(一時間当り二万五〇〇〇円×八七時間)の費用がかけられたものと推認するのが相当であり、これに弁論の全趣旨により認められる。本件フロッピーの入力前の材料としての価額三万六〇〇〇円(一枚当り二〇〇〇円の割合で一八枚分)を加えると、本件フロッピーは二二一万一〇〇〇円の価額の財産的価値を有する物品と認めるのが相当である。原告は本件フロッピーの紛失により右価額相当の損害を被ったというべきである。
2 もっとも、<証拠>によれば、原告は、本件フロッピーの紛失のことで事後措置を被告大阪佐川急便神戸店の担当者と話し合った際、当初同店に対し、本件フロッピーの紛失により三〇万円の弁償を求めるなどと述べていたが、そのうちに弁償額を四五〇万円と言い出し、結局話し合いがまとまらなかったことが認められる。
原告が被告大阪佐川急便に対して当初フロッピーの紛失による弁償額を三〇万円と述べた根拠は不明であるが、そのような原告の言辞が同被告に本件フロッピーの紛失による損害額につき疑念を抱かせていることは否めないけれども、といって原告の言辞を捉えてそこから本件フロッピーの価額を見積ることは裏付けを欠くので穏当でなく、特段の反証がない以上、前記認定の本件フロッピーの価額を否定することはできない。
3 そこで被告大阪佐川急便の過失相殺の主張につき検討する。
原告がフロッピーのデータ変換を被告一誠社に請負わせるに当り、本件フロッピーの複製(コピー)をとっていなかったことは当事者間に争いがないけれども、被告大阪佐川急便の過失による本件フロッピーの紛失は、原告が本件フロッピーを複製したか否かとは関係なく発生した事態であるから、本件フロッピーの複製をしなかったことをもって原告に過失があるとしても、この過失を本件フロッピー紛失による損害発生の一因とすることはできない。しかしながら、前記認定のとおり、本件フロッピーは二二一万一〇〇〇円もの価額の財産的価値を有する物品であって、高価品であることは明らかであるところ、荷受人の原告において荷送人の被告一誠社をして被告四国佐川急便及び被告大阪佐川急便に本件フロッピーの運送を委託させるに当り、本件フロッピーが高価品であることを明告していないことも明らかである。
<証拠>によれば、本件フロッピーの運送委託を受けた被告四国佐川急便及び被告大阪佐川急便は、運送品が高価品との明告を受けた場合は、運送中に事故が生じたときの補償を考慮して、荷送人に損害保険に加入を勧めるなり、また運送品が高価品であるから取扱いに特段の注意を払うよう運送品の受渡しを確認する証票を貼付し、これに配達取扱者が確認の印判を押すなど、その取扱いはかなり慎重であったこと、そこで本件フロッピーを原告方に配達した谷としても、本件フロッピーが高価品と明告され、前示のような取扱いとなっていたならば、その配達にはより慎重に留意したであろうことが推認される。
そうとすると、原告において本件フロッピーの運送委託に際し、内容物の価額を明告することによって、運送人ないしその被用者をして特別の注意を払って運送に当らせることにより損害の発生を防止できたというべきであるから、損害発生を防止しようとしなかった原告側にも大きな過失があったと認めるのが相当である。
そして原告の右過失は本件フロッピーの紛失による原告の損害発生の一因となっていることは否定できない。前記認定の本件フロッピーを原告方に配達に赴いた谷の過失と対比し、原告の右過失を斟酌すると、原告の前記損害額二二一万一〇〇〇円のうち被告大阪佐川急便に賠償を命ずべき金額は、右損害額の四割に当る八八万四四〇〇円とするのが相当である。
七 以上の次第で、被告大阪佐川急便は、原告に対し、不法行為による損害賠償として、金八八万四四〇〇円及びこれに対する不法行為の日以後である原告主張の昭和六三年七月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
よって、原告の本訴各請求は、被告大阪佐川急便に対し、右認定の限度で金員の支払を求める請求を理由があるから認容し、その余を失当として棄却し、被告一誠社、同四国佐川急便に対する各請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 坂詰幸次郎)